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最高裁判所第三小法廷 平成3年(あ)1204号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岩嶋修治の上告趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権により判断する。

一  原刑決及びその是認する第一審判決の認定によると、(1) 被告人は、普通乗用自動車に妻を同乗させて運転中、交差点から約五〇メートル手前の地点で信号待ちのために前車に追随して停止し、同所で妻を後部左側ドアから降車させようとした、(2) 同所付近は、交通頻繁な市街地域であり、かつ、被告人車と左側歩道との間には約1.7メートルの通行余地があった、(3)被告人は、単に自車左側のフェンダーミラーを一べつしたのみで、後方から接近する車両はないものと考え、妻に対して降車の指示をし、これに従って同女が不用意に後部左側ドアを開けたところ、後方から走行してきた被害者運転の原動機付自転車がドア先端部に衝突し、被害者が傷害を負った、というのである。

二 右のような状況の下で停車した場合、自動車運転者は、同乗者が降車するに当たり、フェンダーミラー等を通じて左後方の安全を確認した上で、開扉を指示するなど適切な措置を採るべき注意義務を負うというべきであるところ、被告人は、これを怠り、進行してくる被害者運転車両を看過し、そのため同乗者である妻に対して適切な指示を行わなかったものと認められる。この点に関して被告人は、公判廷において、妻に対して「ドアをばんと開けるな。」と言った旨供述するが、右の言辞が妻に左後方の安全を確認した上でドアを開けることを指示したものであるとしても、前記注意義務は、被告人の自動車運転者としての立場に基づき発生するものと解されるから、同乗者にその履行を代行させることは許されないというべきであって、右のように告げただけでは、自己の注意義務を尽くしたものとはいえない。これと同旨の見解に立って、被告人の過失を肯認した原判断は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官大野正男 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

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